人の死なない小説「武士道シックスティーン」「武士道セブンティーン」誉田哲也 [NO BOOK NO LIFE !]
- 作者: 誉田 哲也
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/02/10
- メディア: 文庫
- 作者: 誉田 哲也
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2011/02/10
- メディア: 文庫
死は誰にも訪れるものとわかっていても、日常の中に埋もれて、強く意識して生活していることは少ない。日本に大地震があって、大勢の人が亡くなった。死がリアルに生活に入り込んできて、目をそらしようがない今・・・娯楽で読んでいる小説でまで、わざわざ死と向かい合いたくない。大量無差別殺人事件をテーマにした小説を途中で閉じて、本屋で「人が死ななそうな」本をみつけた。それが誉田哲也の「武士道シックスティーン」と「武士道セブンティーン」だ。(エイティーンもあるが、文庫化されていないため、未読)早苗と香織という女の子が剣道によって、出会い、友情と成長の青春小説。香織は中学生全国2位の有名選手。しかし、全国優勝を逃したうさばらしに出場した地域の剣道大会で、まったく無名の選手にひどい負け方をしてしまう。無名の選手というのが早苗である。早苗は父親が事業に失敗し、出ていってしまい、家庭事情は複雑、争い事が好きではない。片や、香織は勝ち負けに異常にこだわるタイプ。はじめは反発し合うふたりだが、やがて・・・。出てくる登場人物がそれぞれキャラクターが生きている。誉田哲也といえば、「ストロベリーナイト」という小説で有名。先日竹内結子主演でドラマ化されたモノを観たが、面白かった。この作家はキャラクターを生かすのが得意らしく、このドラマの登場人物も個性的でおもしろかった。「ストロベリーナイト」は「武士道」シリーズと真逆、殺人ショーの話だ。- 作者: 誉田 哲也
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2008/09/09
- メディア: 文庫
「武士道」シリーズの面白かった点は、剣道の精神修練的な要素だと思う。剣道をただスポーツとして行うのではなく、生き方の美学という所まで、考え、たどり着こうとする。それが武士道なのだ。思うようにいかないこと、理解出来ないこと、意に反する事にぶつかった時どう生きるべきか?未熟なイマドキの女子高生が結構悩んであがいてる姿が微笑ましい。今の精神的に弱っている時に、なんてまあ都合良く、いい小説に出会った物だ。と、しみじみ思います。コメディーの要素もあり、読みやすいです。オススメ!剣道がテレビで目にする事が少ない競技なので、映像的に想像しにくい点と、ラストの解決の仕方が結構あっさり目なのが、「そんなにうまく行くか?」と疑ってしまう点が、ちょっとだけ気になるところではある。
急にマンガが読みたくなって [NO BOOK NO LIFE !]
千葉市美術館でやっている若冲展に行ってきました。
若冲は結構人気ある江戸時代の人気日本画絵師。
30歳で青物問屋の家督を弟に譲り、絵描きの道に飛び込んだ人。
その後は脇目降らず、酒も女もやらずって感じで、一生描いて描いて描きまくった感じの人。
作風は現代的で、繊細かつ大胆。描写力も並外れていますが、デザイン性のある作品です。
北斎漫画が現代の漫画の源流と言われていますが、
漫画好きの人なら、若冲はたまりません。
アキラだって、デスノートだって、こういう物がなければ、日本に生まれなかったかもしれないです。
そんなわけで、帰り道に本屋に寄って、大場つぐみ×小畑健デスノート組の「BAKUMAN」を購入。
- 作者: 小畑 健
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2009/01/05
- メディア: コミック
ココの所、漫画を読んでいなかったので、なんだかすごく楽しい気分になっていまいました。
元々、漫画、アニメが大好きな隠れオタクなわたし。
大人になってからは活字も読むようになって、今は割と漫画より小説を読む事が多いですが、
やっぱり面白いな〜。それに絵が巧い!きれい!構図がいい!動き、スピード感がある。
下手な絵描きの展覧会行くより、漫画の方が勉強になるくらいです。
話題になっている作品なので、皆知ってると思いますが、
「BAKUMAN」は、高校生の男の子二人が原作と作画で組んで、週刊少年ジャンプでデビューし、活躍してく話です。もう実名でジャンプとか出ちゃってるし、編集部の仕組みから、編集員のひとりひとりまで、実在するらしいです。
そういう意味では業界楽屋落ち的な要素もないわけではないけど、
とことん、読者の受けを狙って、作品を練りに練って行く姿勢がいい。
「そうだよね!」一見、さりげなくやったように見えても、影にはそういうがむしゃらさがあったり、
世界を漫画に置き換えたスポコンものみたいです。
話は飛ぶけど、W杯サッカーに日本代表の試合を見ていて、
勝ちに執着するがむしゃらな姿勢は見ていて気分がいいです。
スポーツは完全に勝てば官軍、負ければ賊軍の世界、どんなにキレイでも勝たなきゃ意味がない。
そこへ中村俊輔が出てくると、すごくテンション下がる。
洗練されたスマートなプレーって今の日本には要らない気がします。
ちなみに、にわかにサッカーを見て、好きになった選手は大久保選手です!
(余談です)
小畑健は今の漫画家の中で、割と巧い方だし、デザイン性に優れていると思います。
「デスノート」の表紙なんて、凄く美麗。カッコいいな〜とうっとりしてました。
まあ、死神やドクロが出てくるから、好きでない人もいるかもだけど、
わたしは好きです。
上の表紙は特に好きなデザインです。
今年の白日の作品、「構図が悪い」って結構言われた。
良い構図って、どんなんだろうと、絵の展覧会へ行ったり、技法書見たりして、考えたけどわからん・・・
でも、小畑健の漫画の構図の良さはわかるな〜。
今度、漫画の構図を参考に作品を描いてみようかな〜と思ってしまった。
出来過ぎ龍馬 [NO BOOK NO LIFE !]
先日、全国の福山雅治ファンを敵に回すような事を書いてしまいましたが、
司馬遼太郎の「竜馬がいく」は、坂本龍馬の小説の中では良く書きすぎなんだと、
歴史好きな人に教えてもらいました。
どおりでね。一番かっこいい龍馬を知ってしまったら、他が不満なのは当たり前なのか?
文句を言いつつ、まだ見てますよ!「龍馬伝」!
お龍や睦奥宗光も出て来て、役者がそろってきました。結局見るんです。
タグ:坂本龍馬
そこそこ龍馬 [NO BOOK NO LIFE !]
前にも書きましたが、わたしは坂本龍馬が大好きです。
厳密に言うと、好きなのは、司馬遼太郎の「竜馬がいく」の坂本龍馬です。
ほとんどバイブルです。
NHK大河ドラマの「龍馬伝」をかかさず、見えいますが・・・
納得いきません。
ありゃあ、龍馬じゃないきに!(土佐弁風に)
武市半平太は確かにひとつの事を決めると生真面目に突き進んで、融通が利かなかったり、引き返せない所まで行ってしまいますが、文武に優れ、世話好きで、リーダータイプです。
最後はうすうす道を誤ったことを知っていますが、多くを巻き込み、自分だけの事でなくなってしまった故に、悲しい結末に突き進んで行ってしまう感じなのですが。
「龍馬伝」では、ほとんど私怨にみえる。器小さ〜と感じてしまう。なんか違うよね。
次に岡田以蔵。
わたしのイメージは粗暴で愚鈍、無教養、品格がない。しかし、剣の腕はたつ。表舞台には立たせてもらえず、裏方の暗殺者や用心棒的に扱われた感じ。利用され感はあるけど、人きりとしての元からの性質もあったのは?と、思う。自分から招いてしまった所もあったんじゃないかと。
佐藤健くんじゃ、可愛過ぎます。(おそらく、今後女性の以蔵ファンが増加するのでは?と思います。)利用されて可哀想!ってなりがちですが、自分で選んだ道ですから、そういう素質もあったんですよ。きっと。
一番いかんのは、福山雅治だ。
この人は大根でもない。そこそこ演技も出来る人だ。でも、すんごく巧いかというと、そうでもない。
歌も下手じゃないけど、すばらしいボーカリストってわけでもない。
顔もカッコイイ方かもしれないけど、世の中にはもっとずっと整った容姿の人がいる。
そう思うと福山雅治というのは、何をとってもそこそこの人なのだ。
あえて貶すほどの欠点もないが、これぞという飛び抜けた才能があるわけでもない。
こういう男が日本で何年にも渡って、ナンバーワンモテ男として、君臨し続ける日本という国の不思議さよの〜。
竜馬って、馬鹿か?天才か?って、極端に見える事が多く、そういう証言も実際残っているようです。
しかし、福山の竜馬は、なんだかそこそこな感じなんです。
こういう龍馬がいてもいいじゃないか!と、言われてしまえばそれまでだけど、
このドラマには痛快さ、愉快さ、美学が足りない。
なんだか安っぽい龍馬だな〜と思う。
わたしの龍馬を求めて、何度目かわからない位読んだ「竜馬がいく」を再読しております。
この竜馬はいいぜえ。 そこそこは男の生きる道じゃないっす!!!
「心霊探偵八雲 SECRET FILES 絆」神永学 [NO BOOK NO LIFE !]
- 作者: 神永 学
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2009/10/24
- メディア: 文庫
第六巻の発売を待っていたが、いつの間にかこの番外編みたいのが出ていました。今、宮本輝を読書中ですが、一旦中断して箸休めします
晴香に出会う前の八雲の中学生時代を描いたもの。父親はわからない、母には殺されかけた上に、捨てられる。異形の左目は幽霊が見える。弥勒菩薩のような心暖かい母方のおじ一心にひきとられて育てられているとはいえ、実の母親に殺されかけた八雲は「おまえはいらない子だ」と宣告されたも同然、赤い左目は恐れられたり、気味悪がられたりで、生きて行こうという光が見いだせない、「誰か自分を殺してくれるのなら殺してくれ」というような自暴自棄の時代。
後藤刑事との出会いや事件の捜査に協力するようになったきっかけ、奈緒の母親との心のふれあい、一心の恋物語・・・
絶望の八雲少年が顔を上げて歩き出すきっかけとなる様々な今まで明かされていなかったエピソードが描かれています。
↓ネタばれあり
明美(八雲の中学の先生で奈緒の母親)が何故佐和子の幽霊事件と自分の過去とを、遺体が掘り起こされるまで気がついてないのか?が少し釈然としなかった。忘れてた?自分でやったのに?
その点がちょっとひかかったけど、あとはあいかわらず面白かったです。
晴香に出会って、八雲は変わった部分も多いけど、この番外編を読むと、晴香がいない間も、このエピソードの後、自力で相当頑張ったんだな〜と思うと、うるうるしてしまいました。
この小説は軽快な台詞回しと話の展開の早さで、軽く読めるけど、設定的にはかなりヘビーな内容です。
八雲のキャラが最大のこの小説の魅力ですが、
幽霊が見えるという事が、物事が表層の一面からだけでなく、裏面が見える事に寄って、人の気持ちや関係が表面から見えている事だけでない事が描かれています。その事には悪意や憎しみといった負の感情もありますが、悲しみや愛、強い意志も存在し、その辺がこの小説の第二の魅力となっています。
これから、これでもか!っていうヘビーな試練が八雲に待っていそうな感じです。その度、傷ついたり,迷ったり・・・すぐそばに存在する晴香との恋物語もなんかじれったいけど楽しみです。
なんか以前発売していたコミックとは別に改めて新しいコミックの八雲シリーズが発売になっているみたいですね。文庫の中に入っていたチラシでみました。文庫の表紙の絵とイメージが違い、ソフトで優しい絵柄です。どんな感じなのか、コミック版もちょっと見てみたいと思いました。
タグ:読書
「恋愛中毒」山本文緒 [NO BOOK NO LIFE !]
- 作者: 山本 文緒
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2002/06
- メディア: 文庫
「恋愛中毒」、このタイトル、絶対自分だったら買わないよな〜と、思う。
「ノルウェイの森」を貸してくれた人が一緒に貸してくれた小説です。
きっと軽い恋愛小説だろうと、たまにはいいかもと思いながら読んだが、予想より遥かに良く出来た話だった。
悪いけど「ノルウェイの森」より数倍面白かったです。
離婚に傷つき、もう恋愛はしないと心に誓った主人公は、つとめていたお弁当屋に訪れたテレビ等で活躍している年配の男性と出会い、愛人になる。って、こんな風にあらすじを書いても多分この小説の面白さは伝わらないと思う。
この主人公に共感する所があると言うと世の男性はかなり引くかな〜。もちろん、否定的な気持ちもあるし、こんなふうに危険な方向に至らないように自分をいさめる理性だってあるさ。たぶん・・・
あとがきを読むとこの小説に共感するという女性の声はものすごく多いらしい。
まあ、昔から女の情念って、多くの物語になっているわけで、よくある事なんだろうと思う。女性が誰でも多少なりとも持ち合わせてる性質なのかもしれないです。
でも、この小説のすごいなと思うのは、著者も女性で、実に冷静に淡々とこういうものを分析して、きっちり表現出来てしまっていること。こういうものを自分自身も持っていなければここまで理解出来ないと思う反面、冷静に客観視出来なければ、こういう風に描けなかっただろうと思うと、山本文緒は大した小説家だと感心した。
構成や展開の巧みさで、あまりドロドロしないで読めてしまうが、後ですーっと恐怖が忍び寄るような恋愛小説です。
今までいくつか恋愛小説なるものを読んできたが、これはかなり上等な部類。あ、でも男性は読むと引くかもね(笑)。
なんかな〜「ノルウェイの森」 [NO BOOK NO LIFE !]
読み終わって1週間。
なんかな〜あの小説、やっぱ・・・なんかな〜スッキリせんな〜。
あの小説を悪く言う人がいると「そんなに悪くないよ」と思う。でも、良く言われると「それほどでもないよ」と言いたくなる。
あんだけの空前のベストセラー小説でなければ「ああ面白かった〜」ですむこと。
でもさ〜皆が良いと言うほどの小説でない。というのが、正直な感覚かな。
なんとなく美しい話だったし、好きなシーンもいっぱいある。それに兎に角うまい!めちゃくちゃうまい!
読ませる。めちゃくちゃ読まされる(変な日本語)
村上春樹のデビューって文学界に衝撃だったろうなつーくらいうまい。
それは認める。
でも素直に受け入れるのを抵抗してしまうんだな〜。はあ
今、「ノルウェイの森」を貸してくれた人が一緒に貸してくれた別の作家の本を読んでいる。
それを読んでいると「ノルウェイの森」がいかにキレイすぎちゃうかがわかった。
嫉妬心、いじわる、自己嫌悪、わがまま、うじうじ、妬み、ひがみ・・・
自分ではこうなりたくはないと思っていても、振り回されたり、振り回したり、じたばたしちゃう。
そういう方がなんかいいな〜と思う。自然というか?
「ノルウェイの森」の主人公が町でひっかけた女の子と複数関係をもつのが唯一、この人のひずみっぽいけど、友人の彼女にその事の理由付けについての会話で「やさしいから・・・」って言われてるのとか、
うわっぞわっげげげ〜なのだ。村上春樹はそういう風に理由づけして正当化しちゃうわけ?とか思って、なんかね〜嫌な気分になった。
破綻とか歪みとかそういうのに、無様で良いから、向き合って、こねくり回して、あがいて・・・というのが、わたしは結局好きなのかな? 結果的に解決出来なくたっていいのだ。間違った結果を出して間違った行動に出たって構わない。なんとかしようとあがく方がいいな〜。
万引きした人がわたしはこうこうこういう不幸があってそれで寂しくってやってしまった。みたいな言い訳するのをテレビで見かけるけど、「自分で言っちゃうか〜!!!」と思ってしまう。自分にそれらしい理屈つけて、キレイに逃げてるの、嫌悪しちゃうんだな〜。
「ノルウェイの森」はきれいごと過ぎるかな。死やセックスのテーマがあるから、きれいなばかりじゃないと誤摩化されそうになるけど、やっぱりキレイに逃げた言い訳に一度はまんまとうまく説得されてほだされてしまった感じがする。
この先、村上春樹はあんまり積極的には読まないだろうなと改めて思ったのでした。
タグ:読書
「ノルウェイの森」上下 村上春樹 [NO BOOK NO LIFE !]
- 作者: 村上 春樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/09/15
- メディア: 文庫
- 作者: 村上 春樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/09/15
- メディア: 文庫
「え〜、なんで今更〜!?」という声が聞こえるようです。はい、わたしもそう思います。20年位前「ノルウェイの森」の発売当初、学生時代にアルバイトしていた本屋さんで、在庫がなくなり、駅向こうの別の本屋さんへ買いに行かされた覚えがあります。爆発的な人気、ブームと言っていい感じの空気、猫もしゃくしも「村上春樹」というのが、引いたのかもしれないです。なんせ私はミーハーなくせにあまのじゃくという自分でも自分がコントロール出来ない厄介な人間なんです。そんなわけで、気になりつつも食わず嫌いで現在に至ってしまったわけなのです。でも、イタリア留学前に友人から「ヨーロッパに生活する日本人の気持ちがきっと共感出来るよ」と「遠い太鼓」というエッセイをもらって読みました。言われた通り、共感出来ましたよ。面白かったですよ。それでも小説には行かなかった。何故なのか? 多分、完全にきっかけを失ってしまっただけだと思います。- 作者: 村上 春樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1990/06
- メディア: 単行本
今年、村上春樹の小説が再びブームになっている、まるで二十年前のように・・・で、思い出したのです。取りこぼしたベストセラー小説を。「1Q84」を読んでみようと思ったのですが、この人の代表作を読まないでいきなりコレに行くのは失礼な気がして・・・。そこに会社で一緒の女の子が最近読んだというので、それは是非貸してくれ!とお願いして、20年越しの気になる小説「ノルウェイの森」にやっと出会える事となりました。- 作者: 村上 春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/05/29
- メディア: ハードカバー
- 作者: 村上 春樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/05/29
- メディア: ハードカバー
↓↓↓ここからは注意!ネタばれ有りです!(でももう皆読んで知ってるよね)喪失と再生の青春小説。例のあれだ、わたしの好きな「青春の苦悩と旅立ち」ってやつです。この手はもう無条件でまいっちゃうんです。きゅ〜んっと来ちゃうだな〜。だから面白かったです。わりと好きですよ。この小説を今この年で読んでよかったなと思います。ほぼ主人公と年齢の感覚が重なります。過去を振り返っている僕は37歳、思い出の中の僕は20歳。二十歳の頃に読んでいたら、どんな感じだったろうと思います。うまいし読ませる小説なので十分楽しめたと思うけど、20歳の頃を振り返る自分というものと重ねる事は出来なかったと思うからです。この小説の描かれている舞台は日本で、でも村上春樹が持つ空気がそうなのか? 私自身の記憶がそういうイメージを連想するのか? は定かではありませんが、ヨーロッパの匂いがしました。特に直子とレイコさんがいた施設で僕と三人で過ごす時間は、イタリアで知り合った日本人の友人のTさんと台所の小さなテーブルで、「紅茶のおいしい入れ方」であったり、他愛もないことをあきもせず語り合ったゆっくり静かな時間を思い出したりしました。イタリアの匂いと光をリアルに思い出すのです。Tさんは10歳位年上で音楽が大好きでザ・スミスをよく聴いていました。絵の話もいっぱいしました。直子の裸体が月の光に浮かび上がるシーンは、アンドリュー・ワイエスの絵をイメージでした。建物、木々、月、草原、裸体・・・ワイエスだ〜! ワイエスはアメリカ絵画だから、ヨーロッパっぽいというより外国っぽいのかなと思います。わたしはイタリア留学した時に、親から離れ、言葉や文化の違う所に行って、世俗から隔離された感じがした。まるで直子とレイコさんのいた施設のように。モラトリアムを雑音のない場所で、自分自身の本当の声に耳を澄まして過ごしました。「自分の本当にやりたい絵とはどんな絵なのか?」とかね。そう思うと施設は外国で、外の世界は日本となるのかな?レイコさんと僕が交わるラストがすきです。(直子との1回きりのもいいけどね。)それまでの僕のセックス(手や口も含め)はなんだか読んでいて居心地の悪いもので、ひどく小説の中で違和感がありました。「せっかくの美しい物語が台無しだよ。」と、途中で何度も思い、挫折しそうになりました。でもレイコさんとのがあって、ああっと、はじめて飲み込めた感じ。居心地の悪さも違和感も、青春の暗く、もどかしい、でも欲求はあるわけだし、愛と性のあり方をわからないままもがいている未熟な僕の心地そのもののような気がしました。それにこれがないと甘ったるいメルヘンになってしまってたかもと思います。重い荷物を持ったまま生きて行こうという覚悟が解放につながった気がしました。死という重い荷物を持つ事が出来なかった直子と僕の青春は終わった。直子は最後まで覚悟出来なったけれど・・・長くてまとまりがない感想ですみません。好きな所と嫌いな所を上げて最後にします。緑は感情もいらだちも漏れだすけど,わがままも奇行もあるけど、病気や死、経済的な事、しがらみと、文句を言いながら、ちゃんとつきあってる。直子も僕も、「やだやだ〜」「こうしたい!」というがない。自分を吐き出してしまった後の後始末したくないがために最初から出さない感じで、、常に逃げ場作ってる感じが好きじゃないです。一見大人に見える彼らより、緑の方が大人だよなと思いました。正直だし、でも色々責任もとってる。割とすきです。突撃隊が一番すきでした。いつの時代も夢に一途な人間は美しいです。どこ行っちゃったんでしょうね。寂しい。人とのつながりって、いつも一緒にいても突然切れて、糸口がなくなってしまう事があるんですよね。緑のお父さんと僕とのやり取りもよかったです。でも1つだけ、この主人公の僕は、東京か横浜か神戸出身者(もしくは外国帰りか)しか、もっていない遺伝子のようなものが組み込まれていて、そこがどうも「けっ、気取りやがって!」とやっかみなんだか・・・理屈じゃない(その人に罪はないからこの感覚ははた迷惑なだけなんだが)ひねた気分になってしまう。外国帰りの人がこちらがわからない単語を会話に混ぜて話したりすると、「ふんっ!なんだよ。日本語で言えよ。」という感じになるアレです。あの時代に割と飲めるワインって、なんだよ。どんな生活? 赤玉パンチしか知らないわたしには・・・受け入れがたい溝です。だから今後、村上春樹の小説をこれからまた読むかと言うと、あまり積極的な感じにはなれないかも知れないです。それにしても僕の周りの自殺率は高過ぎです。弱さは即、自死につながる。でもさ〜普通さ〜弱さは、身を持ち崩したり、麻薬とか、酒とか、犯罪とか、ただれたセックスとか、ニートとか、暴力とか・・・色々行き先はあると思うんだけど、そちらへは行けない育ちの良さが、自殺へつながるのですかね。まあ、これは私のお育ちの問題なんですかね〜。でも同じような条件だと思うのに松本隆の「微熱少年」という青春小説は素直に受け入れられたけど〜。やはりやりたい事があると強いですよね。こちらは廃盤になったのか?古本屋でしか売ってないと思います。かたや空前のベストセラー、かたや廃盤・・・笑。興味がありましたら、どうぞ読んでみて下さい。
「のだめカンタービレ」22巻 二ノ宮知子 [NO BOOK NO LIFE !]
- 作者: 二ノ宮 知子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/08/10
- メディア: コミック
最新刊出ましたね〜待ってました。でも、あっと言う間に読み終わっちゃいました。
パリに留学してからというものの、結構進行が遅いので、1冊読み終わっても大して話が進まない。物足りないです。
でも、日本での面白おかしく過ごしていた音大時代と比べると、本当の演奏家としての修行は地味でなかなか進まないものなのでしょう。そういう意味では非常にリアルだと思います。読んでる方ものだめや千秋とともに息苦しさを感じるし、巨匠ミルヒーがのだめというカンフル剤で若返ろうとする欲望もなんだか本当にありそうな話です。
のだめは9巻あたりまでが面白かったという意見も多いですが、それはモラトリアムな時代がお気楽で楽しくて、社会に出ると得るものもデカくなるけど、得るための裏付けは地味な作業な訳で、得た時の喜びはでかくても、それまでの道のりは苦しい。当たり前のことなのです。
こういう地味なものをテーマに描き続ける二ノ宮知子ってすごいなと思います。
「蒲公英草紙 常野物語」 恩田陸 [NO BOOK NO LIFE !]
- 作者: 恩田 陸
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2008/05/20
- メディア: 文庫
常野物語の第二弾。
とは言っても、「光の帝国 常野物語」と具体的に話が続いているわけではないのです。
常野という不思議な一族が出てきます。でも語り手の常野というわけではないし、やはり何かが解決するわけでもないし・・・なんと、説明しにくい小説なのでしょう!
主人公の峰子は槇村家(東北の農村の旧家)の主治医の娘。ある日、槇村家の病弱な末娘聡子様の話相手として、槇村家のお屋敷に通う事になる。槇村家には様々な人々が出入りしていて、そこに常野の家族も滞在する。人々の交流と、聡子様との友情、瑞々しい少女時代を鮮やかに描いている物語です。
とりわけ大きな常野一族の活躍があるわけではありませんが、謎な行動をする不思議な常野の家族、村に貢献する槇村家の人々、乱暴な次男坊、仏を見失った仏師、西洋絵画を学んだ絵描き、発明が大好きな先生、・・・聡子様と峰子はとりまく色々な事情を持った人たちとの中で少女から大人へと成長して行きます。戦争という暗雲が漂い始め、何かの熱に浮かされて、時代の流れがもの凄い勢いで進んで行く、そんな日本の中で、常野の一族だけは、流れに流されず、彼らの義務に静かに生きている。
こうだ!とハッキリ何かが言葉で説明されているわけではありませんが、この小説を読み終わって感じる事は、どんな時代でも変わる事の無い真のなにか正しいものというのがあるような気がします。見失ったり、もしくは忘れていたり、状況にそぐわないため心の奥底にしまい込んで誤摩化してしまっているかもしれませんが、完全に失ってしまったら恐ろしいもの。
常野という一族が日本のどこかに本当にいるとしたら、彼らがいる限りは、最悪な事にはならないのでは?と希望を持ってしまう。そんな気持ちにさせる小説です。